リゼット(14新)推奨日記

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IIDXのランダム配置について・その1(AC HEROIC VERSE編)

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1.はじめに

 beatmania IIDXにおいては、オブジェの配置レーンを入れ替えるRANDOMオプションの常用が長らくプレイヤーのデファクトスタンダードとなっている。配置の当たり外れがもたらすインパクトが大きく、クリアやスコアにおいて良い成績を出すためのほとんど前提条件となっているためだ。
 一方で昨今、ランダム配置の「偏り」がしばしば取り沙汰されている。「3バスが来やすい」「階段が階段のまま降ってくる」「連続して同じような譜面となる」といった類の不満が少なからず上がっているのだ。
 これは果たして事実なのだろうか*1。残念ながら、現在までにランダム配置について大規模な調査が行われたことはおそらくない。そこで今回、ランダム配置について、個人の力の及ぶ範囲で検証を試みることにした。
 本記事をご覧になる前にぜひ、同様にIIDXにおけるランダムの偏りについて論考した駄文氏のブログ記事をご一読いただきたい。事前知識として踏まえておくべき事項が網羅されている。
 また、本記事を部分的にスクリーンショットで切り出すなどして、記事の特定箇所のみを拡散することのないようご協力いただきたい。

 

2.検証方法

 以下において、「x番レーン」は、正規配置においてx鍵に配置されるオブジェ集合を示し、「x鍵」はレーンが割り当てられる先のボタン位置を示す。
 beatmania IIDX 27 HEROIC VERSEのアーケード筐体にて、2019/11/18~24の1週間に渡って、1Pサイド・PREMIUM FREEモードで”朧”SPAをクイックリトライにより連奏し、配置先鍵盤を確認の上、鍵盤を全く押さず途中終了する作業を繰り返した。
 ”朧”SPAは、開幕に正規レーンで1234567の16分階段が配置されており、本検証に極めて適していることから選定した。1譜面のみでの検証となることから、「譜面によって配置生成方法が異なっている」可能性については確認できない。また、試行ごとのプレー時間も一定化できていない(おおよそは最初の7ノート目前後でリトライしているがブレがある)。
 検証回数については、PREMIUM FREE20分を15回プレーし2261回分のデータを取得した他、@norimisoIIDX氏より同様の方法で検証した239回分のデータを提供いただき、合わせて2500件のデータセットとした(データセットについては、本記事の最後で公開する)。うち、プレーの区切り等により、クイックリトライによる連続したプレーとなっていない箇所が21箇所存在している。
 2500件という数字は7!=5040通り存在する全ランダム配置に対しては無力もいいところであるが、たとえばバス配置については、バス(1番レーン)が各鍵盤に1/7の確率で割り振られるとすると、2300回程度の試行で、各バスの回数が期待値の誤差10%以内に95%信頼水準で収まることから、一定の条件下では考慮に値する件数と考えられる。
 なお、調査過程において、正規レーンで「1234567」および「7654321」の正規・MIRRORと一致する配置を観測した。巷ではRANDOMオプションにおいてこうした配置となることはないとの俗説があるが、少なくとも現行バージョンにおいては明確に誤りである。

3.「偏り」の定義について

 そもそも「偏っている」という状態はどういうものを示すのか。不満をあげるプレイヤーに聞いてみても答えがバラバラであり、はっきりとした合意が得られない。そこで、2つの偏りに分けて検討することとした。

(1)独立的偏り

 「ある試行における配置は、前回の配置に影響されない」という仮定に立った上で、配置傾向の偏りを検討する。これにより、「特定の鍵盤にバスが偏っている」「特定のレーン同士が連続した鍵盤に並びやすい」といった傾向がないかを確認することができる。

(2)従属的偏り

 「ある試行における配置が、前回の配置に影響されている」という可能性を検討する。これにより、「前回と同じバスになりやすい」「前回と似た配置が来やすい」といった傾向がないかを確認することができる。

 

4.独立的偏りの有無について

(1)レーンの移動関係

 最もわかりやすい「バス配置が偏っていないか」、拡張して「特定のレーンが特定の鍵盤に移動しやすくなっていないか」を確認するため、2500回のうちあるレーンがどの鍵盤に移動していたかを表に表した。
 表については、横軸が鍵盤の位置、縦軸がその鍵盤に対して割り当てられたレーンを示す。例として、表の右上(1,7)は、7鍵に対して正規配置の1番レーンが割り当てられたこと、すなわち7バスを意味している。視覚的にわかりやすくなるよう、確率1/7とした時の試行2500回での期待値357回を黄色、期待値+20%を赤、期待値-20%を緑とした3色カラースケールで表現し、また期待値+10%以上、期待値-10%以下の値は太字とした。以下の図も同様である。

  1 2 3 4 5 6 7
1 359 349 343 349 379 339 382
2 346 390 337 347 378 347 355
3 349 352 361 369 324 356 389
4 369 360 394 361 334 361 321
5 371 386 368 344 350 346 335
6 375 371 349 350 350 354 351
7 331 292 348 380 385 397 367

  2.検証方法に記載のとおり、各鍵盤に各レーンが移動する確率を等しく1/7とすると、2500回の試行下では、信頼水準95%で誤差が約±10%(より正確には9.6%)に収まる。表1行目のバス配置についてはいずれも誤差±10%の範囲に収まっており、特に偏った傾向は見られなかった。
 他方、表から、移動元・移動先の組み合わせ49通りにおいて誤差10%を上回ったものは4通り存在した。これは信頼水準95%においてはやや多いが、一方でレーン同士が独立ではなく、あるレーンの特定の鍵盤への移動回数が増えれば他の鍵盤への移動回数は減るという性質を持つことに留意したい。
 また、各鍵盤に配置されるレーンが等確率となっているかについてカイ二乗検定を行ったところ、p値=0.0135となり、等確率だとすれば1%程度のかなり稀な事象と言える。これは、2鍵に対して7番レーンが移動する回数が際立って少ない点が起因している。確率1/7において2500回の試行で期待値-18%以下となる確率は0.01%程度であり、シャッフルアルゴリズムに何らかの歪みが生じている可能性が推察される。
 とはいえ、有意な差の見られなかった「3バスが多い」を主張する者はしばしばいても「2鍵に7が来にくい」と主張する者は見たことがなく、体感でわかる範囲の差なのかは疑問である。

(2)レーン同士の距離

 レーン同士の配置距離について、隣接配置を1、最も遠い1鍵と7鍵への配置を6とし、2500回の試行における平均距離を求めた。これにより、正規で距離1の隣接レーンが隣接しやすいか(階段が階段のまま残りやすい)、正規で距離偶数の同色レーンが隣接しやすいか(割れた配置となりやすい)を調べることができる。各鍵盤に各レーンが移動する確率が等しく1/7である場合、レーン間の距離の期待値は2.67となる。

  1 2 3 4 5 6 7
1 - 2.69 2.70 2.63 2.72 2.72 2.60
2 2.69 - 2.66 2.65 2.63 2.69 2.67
3 2.70 2.66 - 2.66 2.63 2.68 2.73
4 2.63 2.65 2.66 - 2.70 2.67 2.61
5 2.72 2.63 2.63 2.70 - 2.66 2.67
6 2.72 2.69 2.68 2.67 2.66 - 2.63
7 2.60 2.67 2.73 2.61 2.67 2.63 -

 表より、各レーン同士の平均距離に大きな差は見られず、また「全レーンから全レーンへの距離分布」(確率分布と一致する)に対し、「正規で距離1の隣接レーンの距離分布」「正規で距離偶数の同色レーンの距離分布」についてカイ二乗検定を行うと、それぞれp値=0.58、p値=0.56となり有意差がないことがわかる。

距離 全体 隣接 偶数
1 28.57% 28.42% 28.67%
2 23.81% 24.33% 23.32%
3 19.05% 18.65% 19.10%
4 14.29% 14.13% 14.59%
5 9.52% 9.67% 9.59%
6 4.76% 4.81% 4.72%


5.従属的偏りの有無について

(1)前回配置に対する配置分布

 「あるレーンが、前回配置された鍵盤からどこかの鍵盤に移動しやすくなっていないか」を確認するため、試行2500回のうちクイックリトライによる連続した試行となっている2479回について、ある鍵盤からどの鍵盤に移動していたかを表に表した。
 表については、横軸が今回配置された鍵盤の位置、縦軸が前回配置された鍵盤の位置を示す。例として、表の右上(1,7)は、前回1鍵に配置されたレーンが、今回7鍵に配置されたことを示す。色分け、太字については4.(1)の表と同様である。

  1 2 3 4 5 6 7
1 349 366 361 349 335 353 366
2 342 358 339 336 378 360 366
3 355 330 330 407 332 370 355
4 377 340 367 360 338 341 356
5 369 369 361 335 362 358 325
6 351 362 349 351 366 361 339
7 336 354 372 341 368 336 372

 こちらについても、2.検証方法に記載のとおり、各鍵盤に各レーンが移動する確率を等しく1/7とすると、2479回の試行下では、信頼水準95%で誤差が約±10%(より正確には9.6%)に収まる。
 表から、前回配置先・今回配置先の組み合わせ49通りにおいて誤差10%を上回ったものが1通り存在した。信頼水準95%に対して49回の試行があれば第一種の誤りが1~2生じることは不自然ではないが、前回配置先3鍵に対して今回配置先が4鍵となった回数については、確率1/7において2479回の試行で期待値+15%以上となる確率は0.1%程度であり、比較的稀な事象と言える。一方で、前回配置先・今回配置先の関係が等確率となっているかについてカイ二乗検定を行ったところ、p値=0.537となり十分に大きいことから、全体としては等確率でないとは言えないことが示された。
 これらについても、有意な差の見られなかった「前回と同じ配置が来る」を主張する者はしばしばいても「3鍵から4鍵に移動しやすい」と主張する者は見たことがなく、体感でわかる範囲の差なのかは疑問である。

(2)前回配置と一致・または同種のレーン数分布

 前回配置と今回配置を比較した時に、「同一鍵盤に配置されたレーン数」および「同一色に配置されたレーン数」を求め、確率分布に対しこれらのレーン数分布についてカイ二乗検定を行うと、それぞれp値=0.808、p値=0.279となり有意差は見られなかった*2

集計結果 確率分布上
一致数 同一 同色 一致数 同一 同色
0 36.06%   0 36.77%  
1 37.43% 12.34% 1 36.81% 11.41%
2 18.39%   2 18.33%  
3 6.41% 50.06% 3 6.25% 51.43%
4 1.41%   4 1.39%  
5 0.28% 35.01% 5 0.42% 34.29%
6     6    
7 0.00% 2.58% 7 0.02% 2.86%


6.まとめ

 ACにおけるランダム配置については、独立的偏りにおいて「2鍵に7番レーンが来にくい可能性がある」こと、従属的偏りにおいて「前回3鍵に配置されたレーンが4鍵に来やすい可能性がある」ことが有意な傾向として示されたが、これまでこのような主張をしてきた者が見られない一方で、今回有意性が見られなかった主張をする者が多いことから、ACにおけるランダム配置の偏りについては、プレイヤーが体感だけで「おかしい」と判断できるような種のものではない、と考察する。
 データセットについてはこちらに公開するので、より統計に詳しい方にぜひ詳細な分析を行っていただきたい。
 なお、他環境についても検証を進めており、一部環境では極めて興味深い結果を見出している。続報にご期待いただきたい。

 

 検証・考察にご参加いただいた方 サークル"AA(A)AAA"メンバーおよび関係各位(@capue、@yonexun、@SIG49san、@genmi___san、@rice_Place、@t_cha_n、@robo_taisho、@norimisoIIDX、@radio613、@smania0711) およびBOOTHにてカンパいただいた皆様

 

 BOOTHにて、ビートマニアの統計・歴史などをまとめた本を販売しています。売上は今後の検証資金とさせていただきますのでご興味のある方はぜひ。

 

*1:なお、これまでに、KONAMIよりRANDOMオプションのランダムの真正性については一切保証や明言がなく、たとえ偏りがあっても批難に値するとまでは言えない。

*2:前者については同一鍵盤に配置されたレーン数7のケースが0であり、確率分布上も微小であることから無視して自由度5とした。