リゼット(14新)推奨日記

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鍵ルールのススメ 〜音ゲーと店舗大会〜

ごあいさつ

初めましての方も多いと思いますので先にご挨拶から。木野と申します。東北を転々としながら10年ほど音ゲーをやっています。

この記事では「鍵ルールのススメ」と題して、仙台にて音ゲー大会を参加、あるいは開催してきた経験から、仙台の音ゲー大会で広く使われるカジュアルルールの紹介を中心に、「音ゲーの店舗大会を開催する意義」「上手な大会レギュレーション構築」「天下一音ゲ祭店舗予選のレギュレーション上の問題点」などについて考察していきたいと思います。

なぜ店舗大会を開くのか


店舗大会というものを今まで考えてこなかった方に、あるいは既に店舗大会を開こうと考えている方にも改めて考えていただきたいことです。なぜ、何の意味があって音ゲーで店舗大会を開くのでしょう?最強プレイヤーを決めたい、だとか最高のプレイを見たい、だとか、そういった大会が公式・非公式に開催されている中で、なぜわざわざ一店舗で?

私見ではありますが、ゲーセンとは元来非日常の存在でした。学校や会社といった日常を離れ、好きなゲームに触れ合う異空間。アミューズメントってそういうものです。しかし、アーケードゲーマーにとって、もはやゲーセンは日常の一部になってはいないでしょうか。これでは新鮮味がありませんね。粛々とゲームに没頭し、あるいは身内の仲間と交流する日常「ケ」。それに対し店舗大会は、普段関わらないプレイヤーと繋がり、緊張しながら舞台に立ち、同じゲームでもいつもとはちょっと違ったものを目指して挑戦する「ハレ」の空間たりえる。

再生産された非日常。それが店舗大会なのだ、と私は考えています。まずは、そうした「ちょっとした特別さ」が出発点ではないでしょうか。何も大きなもの、ハイレベルな物でなくとも良いのです。あとはその上に、自分がそこで何をしたいのかを打ち出していけばいい。知らない人との交流会にしてみるとか、オススメ曲のアピール合戦するとか。

自分たちの力で、ちょっとした非日常を生み出してみませんか。それが日常に帰っていく中での活力となり、ひいてはあなた自身に還元されることになるのではないでしょうか。

「鍵ルール」とは


ここでタイトルについてご紹介したいと思います。鍵ルールとは、仙台出身の音ゲーマー、鍵によって作られた変則ルールの一種です。基本は「プレイ後のスコアの各桁を合計する」(98765点→9+8+7+6+5=35pt)というだけのものですが、これがカジュアル大会においては大いなる妙をもたらします。

ありがちな課題曲のスコアを競う大会では、必然と言っていいほどに上級者が必ず勝ちます。これは音ゲーの構造上の宿命と言ってもいいものです。プレイヤーのスキル向上を糧にインカムを稼ぐのが音ゲーである以上、プレイ結果に差がつかなければ達成感がないからです。

上級者しか勝てない。これでは一部のプレイヤー以外は参加しても楽しくありません。スコアでまず勝てませんし、そもそも課題曲をプレイできる域に達していないことも多くあります。誰も悔しい思いをするためにわざわざ時間とお金を費やしたくないのです。

鍵ルール下では、全てのプレイヤーにかなり平等な条件が与えられます。上手なプレイでは上位桁に9や8が並びやすく若干高いスコアを生みやすいですが、それも不確実なもの。一方でそこまでスコアの出ないプレイヤーにも十分な調整の見込み(980,000点と890,000点は同じ価値です!)があり、さらには通常のプレイやネタプレイであっても単純なスコアで逆転する可能性を持っています。さらに恐ろしいことに多くのゲームでは理論値を取ればそのスコアは1ptになってしまうのです。ちょっと笑いが取れます。

また、大きなメリットとして、このルール下では課題曲を必要としません。同じ曲、同じ譜面のプレイが繰り返し流れる「飽き」とは無縁であり、それぞれが「得意な曲」「勝ちやすい曲」「遊びやすい難易度の曲」「ネタプレイができる曲」「紹介したいオススメの曲」を選曲することができるのも大きな魅力でしょう。プレイ前に選曲について一言コメントしてもらうのも面白いかもしれません。

注意点として、機種に合わせた調整が必要となります。たとえば終盤のノートを捨てることで高ptを出すプレイングを防止しなければなりません。ポップンIIDX、ボルテであればクリア失敗にペナルティ、DDRギタドラであれば最後のノートを取った時にnコンボ以上なければ場合ペナルティ、などとすると良いかと考えます。上位数桁がある程度上手なプレイヤーだと固定されてしまうゲームであれば、スコアの下n桁だけを取るルールに変えてもいいでしょう。さらに、オプションを加えてもいいかもしれません。ボーダークリアで+3pt、フルコンボで+5ptといった具合です。機種や大会のコンセプトに合わせて用意してみましょう。

私自身が様々なルールでの大会を試行錯誤してきた中で、鍵ルールはまさにカジュアル大会に最適のルールの一つと言っていいと考えています。店舗大会を運営してみたい方はぜひ一度試してみていただきたいと思います。

レギュレーション構築にあたって


さて、実際に店舗大会を開催する上で、レギュレーション構築に留意していきたい部分を検討してみましょう。

時間の枠内に収まる設計

肩すかしかもしれませんが、何より重要です。大会は、運営者、参加者、店舗の信頼関係の上に成り立っています。開催時間を設定してお店から筐体や設備や場所を、参加者からはお時間をいただいているわけですから、必ず時間内に終わらせるべきです。店舗の貸し出し機材が1セットしかなければ後のイベントに差し障りますし、予定を超えて筐体や場所を占領されることは邪魔となります。参加者の方も後の予定や帰りの交通手段を準備しなければなりません。遅い時間になる場合は風営法も遵守しなければ店舗にも迷惑がかかります(18時を過ぎる場合は15歳、20時を過ぎる場合は18歳未満参加不可と明記すべきです)。

つまり、レギュレーション構築の時点で「およそ何曲分の時間がかかるかわからない」ような設計は絶対に避けなければなりません。たとえば個人戦であればリーグ戦やタイブレーク方式、団体戦であれば勝ち抜き戦のような、人数や勝敗によってかかる時間が大きく変動してしまうようなものは不向きです。シングルエリミネーション・トーナメントや全員が規程回プレイする形式、団体戦であればチーム合計スコアを競うようなものや星取り戦がふさわしいでしょう。

私の経験上は、「プレイ曲数×4〜6分(÷使用台数)+15分」ほどあれば確実に運営ができていました。選曲に悩んだりエントリー・オプション調整の手間がない設計なら4分、それが必要なら6分ほど見たいところです。当日参加が中心で参加人数が事前に確定しないのであれば、人数に応じて1人あたりのプレイ曲数や設けるステージ数を増減させるなどして事前に調整の猶予を確保しましょう。以上を考慮した上で時間に余裕があるようなら、決勝には延長戦を設けてもいいでしょう。

公平性、客観性ある設計

ルールの穴は可能な範囲で塞ぐべきです。参加者側が勝利を目指すことは正しいですし、そのためにルールの範囲で有利になることはされて当然だと考えるべきです。それを「常識」だとか「場の空気」の圧力でその場でストップをかけたり変更させることは公平性に欠けると言わざるをえません。いかにカジュアルな大会であろうと、「良識」に頼った設計ではなくしっかりと明記されたレギュレーションに基づく運営を行うべきなのです。だからこそ事前に、想定外の選曲やプレイングで過剰に有利・不利なプレイヤーが現れるようなことのないようなレギュレーションを設計しなければなりません。

シードを設ける、事前トライアルを設ける、前回優勝者など特定プレイヤーへの挑戦をコンセプトにする、などの場合を除き、特定のプレイヤーを有利にするような設計も新規参加者への不公平感を増すため避けたいものです。また、客観性を保つため、誤解を招かない表現にも留意すべきです。誤った意味に捉えられかねない非公式な用語、曖昧だったりわかりにくい言い回しは控えましょう。

コンセプトに基づいた設計

以上を踏まえた上で、先の章で「なぜ大会を開くのか」考えた結果をここに活かしましょう。「店舗常連を増やしたい」「人の輪を広げたい」「初心者がプレイするきっかけにしたい」「遠征勢を呼びたい」といったカジュアルなものから、場合によっては「地域最強を決めたい」「ランカーにみんなで挑みたい」といったガチなものまであっていいと思います。

ガチなものであれば、相応に実力が発揮されるような仕組み(判定の揺れや一発の乱当たりに影響されにくい、運による組み合わせの有利不利が出にくい)を検討すべきです。前者は複数曲のスコアを使用したりバーサスプレイすることで改善されますし、後者を重んじるならばトーナメント、リーグ戦を避けることが望ましいと考えられます。また、参考スコアによるグループ分けはわざと手を抜く行為がチームに対して有利になるので、ガチで行う場合避けるべきです。

カジュアルに行う場合であれば、運の要素を加えることも高い効果が見込まれます。前述の鍵ルールはその典型と言えます。運要素を加える場合としてもっと一般的なものを示せば、選曲のランダム性や勝利条件のランダム性が挙げられます。特に前者はいかにも「音ゲーらしい」要素であると言えましょう。曲を選択肢から選ばせる、くじ引きさせる、投票させる、クイズ形式にする、ランセレさせる、など様々に考えられます。

この際注意すべきは、プレイヤーにとってあまりに不可能なもの(初心者にとっての高難度やとうてい実現不可能な条件)を提示しない設計でしょう。無理だとわかって挑む消化試合ほどつまらないものはありませんから。同じ意味で言えば、決勝ラウンドを設ける場合を除き、できるだけ多くのプレイヤーに最後のトライまで勝利のチャンスを与えるべきです。クイズ大会における青天井ルール(n問目の点数をn点として合計点を競う方式、後半ほど高得点になる)は参考にすべき事例ではないでしょうか。

天下一音ゲ祭 店舗予選のレギュレーション上の問題点


天下一音ゲ祭は、JAIAが中心となって毎年11月23日を「ゲームの日」とし、全国でファン感謝デーイベントを行う催しの一環として企画されました。「ゲームの日」当日を全国各地の店舗における予選イベントの日として設定し、優勝者を集めて12月21日にブロック決勝を開催する予定となっています。

皆さんもご存知のとおり、店舗予選は大失敗に終わりました。プレイヤーはどちらかといえば白け気味、全国各地の店舗からは「人が集まらない」「盛り上がりに欠ける」との怨嗟の声が相次ぐ状態です。「ゲームの日」の趣旨から言えば、11月23日にまさに私が上で述べた「ちょっとした特別さ」を生み出すイベントを開催することで、店舗を盛り上げようと企図したものと考えられますが、この趣旨と店舗予選のレギュレーション設計は全く噛み合わないものでした。

予選登録が煩雑

事前登録はweb上で天下一音ゲ祭の公式サイトから申し込むものでしたが、非常にわかりづらく不親切なものでした。盛り上がるイベントを開催するなら、ふらっと遊びに来たプレイヤーが気軽に参加できるものにして然るべきです。また、「1人1店舗1部門限定」の縛りも、店舗への集客を意図したものでしたでしょうが、機種間・店舗間のプレイヤー層の被りを考慮していなかった浅はかなものと言わざるをえません。これらは大会直前になって撤廃され、当日参加、決勝進出権を得るまでの複数回参加が可能になりましたが、twitter上での告知しかなく、タイミング的にも遅すぎたと言っていいでしょう。

レギュレーション上からは、人を集め盛り上げたいなら大会に至るまでの「わかりやすさ」「敷居の低さ」を整えなければならないことが教訓と言えます。

課題曲が難しすぎる

課題曲3曲の難易度はほぼ全ての機種で最高難易度を記録し、非常に厳しい関門となりました。大半のプレイヤーはここで参加を諦めたと言っていいでしょう。そもそも今回対象となった4機種はアーケード音ゲーの間口を大きく広げた功績を持つ一方、新規参入が多いこともあってカジュアルプレイヤーが中心の機種であり、一部の真剣なプレイヤーを除いては上達の意欲が薄いとも言えます。その中で多くのプレイヤーはクリアすら危ういこれほどの難易度の曲を指定すれば大多数のプレイヤーが尻込みするであろうことは間違いありません。

メーカー間(特にコナミとそれ以外)でのこれほど派手な移植は音ゲー史のみならずゲーム史を揺るがしましたし、華やかな曲のチョイスは大きな話題を呼びましたが、結果的にはそちらばかりが先行してしまった感は拭えません。別にガチな大会だからと言って、予選まで敷居を上げる必要はないのです。中難度の曲を指定し、「ちょっとした特別さ」の中で楽しくイベントに参加できれば、結果的に負けても参加してよかった、という満足感は得られたのではないでしょうか。

「各機種のチャンピオン候補を選出したい」という大会企画のコンセプトと、「各店舗に集客したい」という「ゲームの日」本体のコンセプトのズレがこの問題点を引き起こしたと言えます。

大会内容が雑

参加費100円でわずか1曲の一発スコア勝負はあまりにガチ大会としてもカジュアル大会としても雑です。人数が事前エントリー方式で確定できるなら、せめて2曲、3曲とプレイさせることはできなかったのでしょうか。公式やtwitterは同点延長の話ばかりしていましたが、音ゲーでの同点は機種にもよりますがこの難易度の課題曲の下では些事と言っていいでしょう(とはいえ曲が未解禁ならその場で負け、は杜撰すぎますし不公平ですが)。それより満足感ある大会内容についてもう少し検討を重ねて欲しかったと思います。

あとはこれだけ公式が絡んだ大規模なものなのですから、店舗経由でちょっとした参加賞を配布するとか、参加者への限定称号を用意するとか、何かしらできたのではないか(各店舗から1機種2000円以上開催料を取っていたわけですし)。現場への配慮の姿勢がズレていたように思えます。


私事ですが、札幌にてグルコスのブロック決勝に参加してきますので、内容によってまたレポートしていきたいと思います。

おわりに


他にもいくつか音ゲー大会運営に関する文章を書いていますので、こちらも参照いただければ、と思います。

音ゲー大会の実況のあり方について

店舗大会でMCが果たすべき役割について本記事でも紹介した「鍵ルール」の考案者、鍵の実況スタイルを参照の上考察しています。

クリステ音ゲー大会記録

私のホームだったゲーセン、タイトーステーション仙台クリスロード店で大会が開かれてきた記録です。私の名前がついているものが企画した大会となります。特に第12回ポップン大会は自分でも最高の出来でレギュレーション構築できたと自負していますので、ぜひご一読いただければと思います。

クリステの大会に関してはここ一年くらいの事情を知らないので、もしご存じの方がいらっしゃればこっそり教えていただければ幸いです。


本記事は#音ゲーマー達の発信所 (1枠目) Advent Calendar 2014の企画の一環として執筆されました。